今や規模の面で日本一の投資信託になったのが、新光US-REITオープン(愛称:ゼウス)1 です。
ただ、規模が大きいからという理由だけで、この投資信託に投資するのは賢い選択なのでしょうか。何か大きなリスクは無いのでしょうか。目論見書2 を読んで確認してみましょう。
おそらく多くの人は、目論見書を受け取るだけで、中までしっかりと読んでいはいないでしょう。しかし、目論見書を読むと、投資信託を売る側が知られたくなかったこともちゃんとかかれています。
投資信託をチェックする際には一番重要な書類です。重要な部分には、ちゃんと目を通すことをおすすめします。
Contents
運用は丸投げ
一番最初に気になった部分は、次の箇所です。
US-REITの運用にあたっては、インベスコ・アドバイザーズ・インクに運用の指図に関する権限を委託します。
◆インベスコ・アドバイザーズ・インクは、7,873億米ドル(2014年3月末現在)の運用資産を有する世界的な独立系運用会社の一つであるインベスコ・リミテッドの一員です。同社の不動産部門であるインベスコ・リアル・エステートは米国テキサス州ダラスに本拠を置き、1983年より運用を開始しています。
要するに実質的な運用は、アメリカの会社に運用は任してしまうって事ですよね。でも、運用を任せるということは、手数料がかかるということです。当然ですが、この手数料は最終的には信託財産の中から支払われます。
下請けに運用を任している分、手数料が高くなっていないかのチェックは重要でしょう。その後のページを見ていくと分かるのですが、信託財産から支払われる信託報酬のうちの3分の1から4分の1程度は、「インベスコ・アドバイザーズ・インク」という会社の取り分になっています。
隠れた手数料があることに注意
表には表れない手数料があることにも注意したいです。
ファンドの仕組み
■当ファンドの運用は「ファンド・オブ・ファンズ方式」で行います。
ファンド・オブ・ファンズとは、投資信託証券への投資を目的とする投資信託のことで、一般に投資対象に選んだ複数の投資信託証券を組み入れて運用する仕組みを「ファンド・オブ・ファンズ方式」といいます。
ファンド・オブ・ファンズ(以下、FOFs)というのは、簡単に言うと、投資信託に投資する投資信託ということです。新光US-REITオープンの場合は、REIT という投資信託に投資する投資信託なので、FOFs に分類されるわけです。
ところで、FOFs には大きな弱点があります。それは手数料が高くつく傾向にあるということです。何故手数料が高くなるかというと、運用対象にする投資信託にも手数料がかかるからです。この手数料は、最終的には、私たちの信託財産の中から払われることになります。
つまり、FOFs に投資をするということは、投資信託2本分の手数料がかかるということです。これでは、うまく行く可能性は小さいですよね。
新光US-REITオープンの場合は、REIT に投資する投資信託です。REIT の場合は、それほど手数料は高くないかもしれません。ですから、気にしすぎる必要は無いのかも知れませんが、ちょっと注意をしておいたほうが良いのは間違いないでしょう。
一番気になるのが分配金に関する記述
この投資信託で一番気になるのは、やっぱり分配金に関する部分でしょう。パンフレットでは十分に説明されていない事項が、目論見書を読むと詳しく書かれています。
分配方針
■原則として、毎月5日(休業日の場合は翌営業日。)の決算時に、収益の分配を行います。
この記述から、ゼウスは毎月決算を行い、毎月分配金が支払われることがわかります。いわゆる毎月分配型ということですね。
そして、分配に関して特に重要なのが、次の部分です。
収益分配金に関する留意事項
●投資信託の分配金は、預貯金の利息とは異なり、投資信託の純資産から支払われますので、分配金が支払われると、その金額相当分、基準価額は下がります。なお、分配金の有無や金額は確定したものではありません。
●分配金は、計算期間中に発生した収益(経費控除後の配当等収益および評価益を含む売買益)を超えて支払われる場合があります。その場合、当期決算日の基準価額は前期決算日と比べて下落することになります。
また、分配金の水準は、必ずしも計算期間におけるファンドの収益率を示すものではありません。
何が書いてあるかというと、次の3つについて説明されています。
- 分配をすると、分配をした金額の分の運用資産が減る
- 分配金の額は突然減ったり増えたりすることがある
- 利益以上に分配金を出すことがある
この3つはとても重要な記述だといって良いでしょう。
それでは、一つ一つ見てみましょう。
分配をすると運用資産が減る
分配金というのは、銀行預金の利息のように考えている人もいるようです。しかし投資信託の分配金は、銀行の利息とは全然違うものです。運用資金を削ってそれを投資家に返しているだけなのです。
投資家にお金を返したら、投資信託はその分の資産価値を落とすことになります。つまり、分配という行為は、投資家にとっては得でも損でもないのです。
もっと言うと、分配金は所得税や住民税がかかることがあるので、投資家にとって不利であるとすら言えます。
利益以上に分配金が支払われることがある
さらに酷いことに、この分配金は必ずしも利益から出ているわけでは無いということです。利益から出しているのなら、運用資産を減らしているとは言っても、納得できる部分はありますよね。でも、利益が無くても無理やり配当を出しているとなると、かなりおかしな話ですよね。
実は、毎月分配型の投資信託に関しては、「利益以上に分配金が支払われることがある」なんていうなま易しいものではありません。赤字だろうと何だろうと、分配金を出し続けるというし信託も珍しくないのです。
はっきり言って、滅茶苦茶です。
分配金は突然減ることも
ちなみに分配金は、定期預金の利息でも債券のクーポンでもないので、突然増減する可能性があります。債券のクーポンや預金金利は、事前に約束があるので、その通りにお金を払わないといけません。しかし投資信託の分配金には、そうした約束が全く無いのです。
利益以上に分配をするなど、分配をし過ぎたりして資産を減らしすぎる事があります。そうすると、分配をすることすら出来なくなる可能性もあります。元々無理な仕組みなので、行き詰まる投資信託も結構多いです。
毎月分配だから絶対駄目だとは言いませんが、以上のような理由で、私には全く合理性の無いシステムに見えるわけです。
この投資信託のリスクは?
目論見書には主なリスク要因も書かれています。この投資信託に対するリスクは大きく2つに分けられるというのが、目論見書の見解のようです。
保有するREIT の価格変動リスク
一つは、保有しているREIT の価格が変動するというリスクですね。このリスクに関しては、次の3つがあるということです。
- 保有不動産への評価
- 配当利回り水準に対する評価
- 企業体としての評価
1つ目と2つ目のリスク要因に関しては理解しやすいでしょう。REIT が持っている不動産が良くなければ、REIT の価値の評価は下げられます。また、予想よりも配当金が少なくても、同様に、REIT の評価は下げられるでしょう。
ちょっと分かりにくいのが3つ目の「企業体としての評価」という部分でしょう。REIT が何なのかを分かっていないと、意味が分からないはずです。
REIT というのは、日本語では不動産投資信託と訳されます。ですから、投資信託の一種であると理解している人が多いでしょう。これ自体は間違いでは無いのですが、実はREIT にはもう一つの特徴があります。
具体的にどんな特徴かというと、投資信託であると同時に会社でもあるのです。会社ですので、経営がうまく行かないと、倒産する可能性もあります。投資信託なのに、倒産してしまうのです。ですから、「企業体としての評価」という項目が出てくるわけです。
保有するREIT の有価証券としてのリスク
もう一つのリスクとしては、投資する対象であるアメリカのREIT の、有価証券としてのリスクです。
- 取引所における取引の需給関係による価格変動リスク
- 取引所における取引量が減少または無くなることによる流動性リスク
- 為替変動リスク
- カントリーリスク
1つ目と2つ目は国内外の株式などにもあるリスクです。ですから、率直に言って、あまり気にしても仕方が無いような気がします。
3つめの「為替変動リスク」ですが、要するにドル円の為替レートがパフォーマンスに影響するという話ですね。過去20年くらいの例を見る限り、ドル円の場合は、最大2割程度の変動は覚悟しないといけないという感じでしょうか。
年間2割の変動というのは、確かに大きな変動です。それでも途上国との通貨の間の為替変動と比べるとかなり穏やかであるとも言えます。
それに外貨を持たないリスクもありますから、どう考えるかは難しいところですね。
4つめの「カントリーリスク」というのは、アメリカで内戦が起こったり、法改正がされて大きな制度上の変化が起こったりというリスクです。これに関しては、あまり心配しても仕方が無いというのが率直な意見です。
中国みたいな国に投資するのなら、十分に考えないといけないのですけどね。
手数料など
最後に手数料などの細かいルールについて、気になる部分をチェックしておきましょう。
まず気になったのが、「信託金の限度額」という項目です。新光US-REITオープンは、2兆円までというルールがあるようです。これを書いている時点で、1.3兆円規模の投資信託なので、2兆円というのは無い話ではなさそうですね。純資産総額が2兆円を超えた場合は、投資信託を新たに買えなくなる可能性があります。「投資する場合はお早めに」という感じでしょうか。
最低いくらから買えるかに関しては、「購入単位:販売会社が定める単位(当初元本1口=1円)」とあります。要するに、販売会社によって異なるということですね。
購入するタイミングでかかる販売手数料は、販売会社によって異なります。ただ、上限は決まっていて、「購入申込受付日の翌営業日の基準価額に、3.24%(税抜3.0%)を上限」という規定があります。100万円買ったら3万2400円の販売手数料がかかる可能性があるということですね。上限いっぱいだと、かなり高いなあという印象です。販売手数料にこだわる人は、ゼウスを取り扱ういくつかの金融機関をあたって見ると良いのでは無いでしょうか。投資額にもよりますが、数万円単位の節約につながる可能性もあります。
長期で保有する場合に一番大きい手数料である信託報酬は、「当ファンドの計算期間を通じて毎日、投資信託財産の純資産総額に年率1.6524%(税抜1.53%)を乗じて得た額とします。」と決まっています。基準価額は日々変動するので正確な額は出せませんが、100万円投資すると年間1万6000円程度は手数料がかかるというイメージを持っていると理解しやすいでしょう。ただ、基準価額が上昇した場合は、ずっと大きな手数料になる可能性もあります。逆に基準価額が下落した場合は、ずっと小さな手数料になる可能性もあります。
あと、繰り返しになりますが、ゼウスはファンド・オブ・ファンズなので、投資しているREIT の手数料も負担しないといけません。
- MMF やETF を除くと1位ということですね。 [↩]
-
目論見書とは
目論見書というのは、簡単に言うと、投資信託に投資する場合に知っておかないといけないことを書いた書類のことです。具体的にどんなことが書かれているかというと、投資信託の目的や特色、リスク、運用実績、手数料などが書かれています。
投資信託の目論見書には、実は2つの種類があります。一つは交付目論見書と呼ばれるものです。この目論見書は、投資信託を購入する前に、必ず渡されることになっています。
もう一つは請求目論見書と呼ばれるものです。こちらの目論見書は、投資家から請求があったら渡さないといけないとされています。内容的には、交付目論見書よりも詳しくなっています。
[↩]
投資信託での資産運用を考えるなら、その前にiDeCoの検討を
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ちなみに、手数料等を考慮すると、iDeCo の窓口金融機関にはネット証券がお勧めです。興味がある方は資料請求から。

投資信託では金融機関はどこを使う?
投資信託を使って資産運用をするならSBI証券がおすすめです。取り扱い本数が2,500本以上とかなり多く、顧客満足度も高い証券会社だからです。
投資信託の積立をして長期的な資産形成をする場合も、やっぱりSBI証券が良いでしょう。銀行や信用金庫からの自動引き落しに対応していて、とても便利です。月々100円から積立てられるのもメリットですね。
ETF を選ぶ人は手数料にこだわっている人が多いはずです。もしそうなら、証券会社に支払う売買手数料にもこだわるべきですよね。大手証券会社の窓口なんかで買ったら、手数料が高くなって本末転倒です。
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